「流域思考」の自然共生型都市再生は、おおむね次の3本柱によって進められます。
流域地図の共有
対象とする流域の地図を共有することが、「流域思考の生態文化地域主義」の最も重要なポイントです。
流域地図の共有のためには、「ランドスケープ・イメージング」という手法を使います。 「ランドスケープ・イメージング」とは、流域のかたちを動物などのかたちに見立ててキャラクター化し、そのキャラクターを流域活動のシンボルとすることで、流域地図の共有をはかる手法です。
流域地図を共有するメンバーによって、「流域思考」に基づく実践活動が進められます。
鶴見川流域における実例
1991年以来、鶴見川流域をバクのかたちにみたてて、流域活動を展開しています。現在、河川管理者が設置する看板や、河川管理者の実施するキャンペーンでも、バクのキャラクターが採用されています。
都市計画の地球化
流域などの自然ランドスケープを計画枠組とした都市計画を策定します。いわゆる法定計画でなくても、まずは、都市の足もとに広がる山野河海・丘陵・台地・流域・水系・海岸等の生態系(ランドスケープ)の枠組みにそって、1.で設定した課題を踏まえて、対象とする流域の将来ビジョンを描き、共有することが重要です。
鶴見川流域における実例
2004年、鶴見川流域の20~30年後の将来像をまとめた「鶴見川流域水マスタープラン」が、鶴見川の河川管理者で組織された委員会によって策定されました。この策定にいたるまでに、TRネットは1991年に鶴見川流域の将来像について8つの基本提案を行い、河川管理者と共にそれらのビジョンを共有しながら、活動を行ってきました。鶴見川流域水マスタープランは、流域思考に基づく鶴見川流域の将来ビジョンであり、河川管理者とTRネットなどの市民活動の連携の成果でもあります。
自然共生型・生態文化複合の育成
自然共生型の都市再生は、都市市民の暮らしにおいて、日々実現されるものでなくてはなりません。ランドスケープ・水循環・生物多様性など地域の生態系が、地図や、会話や、各種の余暇活動等に代表される日常の暮らし・地域の文化に組み込まれている様子を、「自然共生型・生態文化複合」と呼んでいます。「流域思考」の自然共生型都市再生では、「流域思考」を支える「自然共生型・生態文化複合」の育成が必要です。「自然共生型・生態文化複合」の育成を、「流域文化の創造」と呼ぶことも可能です。
具体的な手法を以下に示します。
拠点の整備と継続的な活用
都市において、流域や自然とふれあえる拠点を整備することが、流域文化の創造のために始めに着手すべき活動です。1.で設定した課題を踏まえて様々な拠点の整備が考えられますが、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 生物多様性保全のためのビオトープ整備
- 水循環の回復のための水辺整備
- 水辺とふれあうための親水護岸・広場整備
- 水害防止のための遊水地整備
- 流域意識啓発のための集客施設
そして、これらの整備した拠点は、定例的に活用していくことが重要です。
鶴見川流域における実例
- 自然保全拠点の整備
鶴見川流域では、毎月少なくとも10か所以上で、自然保全拠点として整備および継続的な活用が、地域の市民団体によって行われています。また、行政・企業との連携で、外来種の侵入防止と在来植生の回復作業、雑木林の再生作業など大規模な自然保全も行われています。 - 鶴見川流域センター
鶴見川流域の中流・小机では、河川管理者である国土交通省・京浜河川事務所が「鶴見川流域センター」を開設し、npoTRネットが市民・企業・学校等に向けた流域の普及・啓発イベントを実施するなどして活用しています。
広報・教育・普及啓発
流域環境教育
次世代を担う子どもたちが、足もとの生態系=流域に親しみ、そこに暮らす生きものたちや大地の凸凹や水の循環にかかわる感動的な出会いを通して、足もとの生態系に対する親和性をはぐくみ、真の地球人として育っていくことが大切です。また、その学習機会の提供を、子どもの成長・発達段階(人間は、3~9歳頃に生きものと遊び、11~13歳頃に探検をしたり秘密基地をつくったりして“地図”が描けるようになると言われている)による興味・関心の変化に即した方法で実施することが重要です。
鶴見川流域における実例
- 学習支援
TRネットは、流域環境教育の方針に沿った学習支援を実施することにより、多くの方々の信頼と共感を得ることができ、npoTRネットが支援したこどもたち(主として小学生)たちの数は、年々その数を増やし、2007~2009年度は、毎年述べ4,000名を超えるまでになっています。また、学校の枠を超えた「バクの流域こども探検隊(通称:ライジャケ隊)」も進展、毎年述べ数百名の方が、親子での流域体験を重ねています。 - 流域学習スタンプラリー
TRネットが、鶴見川流域で、市民団体が実施している自然保全活動の拠点や企業の環境関連施設などを巡ってスタンプを集めるスタンプラリーを実施しています。主に探検をする子どもたちを対象に、鶴見川流域の探検を促すことが目的です。
流域ツーリズム
都市において展開される余暇活動の中にランドスケープ・水循環・生物多様性など流域の生態系を組み込む手法として、有効です。
川・尾根などランドスケープに沿って楽しむウォーキング、バスツアー、自然観察会などを、継続的・定期的に実施することが重要です。
鶴見川流域における実例
TRネットでは、1991年より、鶴見川の源流から河口までを2日間にわたって歩く「鶴見川新春ウォーク」を毎年1月に実施しており、ここ数年では1日あたり60~80名が参加する人気のイベントです。
なお、これらの手法は、必ずしも1→2→3の順に進めるものではなく、流域の事情に応じて、異なる順序で進める、同時並行で進めることが望ましい場合があります。