平成18年9月22日、国土交通省は平成17年度全国河川水質ランクを発表。その資料の中で、鶴見川の水質は、<平成17年度河川ランキング>において比較された河川のうちで、水質下位5河川の下から2番、と発表されました。これをもって、多くの市民は、<鶴見川の水質は全国ワースト2>と受け取っているようです。しかし、これは、まったくの誤解。今回発表されたデータは、全国全ての川の中で鶴見川水系・本流の水質がワースト2という意味ではありません。誤解せず、国土交通省発表データの正しい理解を進めましょう。以下、公表されたデータと、npoTRネットの基本意見を紹介します。
国土交通省のHP: http://www.mlit.go.jp/river/press_blog/past_press/press/200607_12/060922/index.html
<平成17年度河川ランキング>において公表された順位
No. | 地方名 | 河川名(水系名) | 都道府県名 | 平均値 | (75%値) |
---|---|---|---|---|---|
1 | 近畿 | 大和川(大和川水系) | 大阪、奈良 | 6.4 | (7.9) |
2 | 関東 | 鶴見川(鶴見川水系) | 神奈川 | 4.7 | (6.0) |
3 | 関東 | 綾瀬川(利根川水系) | 埼玉、東京 | 4.7 | (5.6) |
4 | 関東 | 中川(利根川水系) | 埼玉、東京 | 3.7 | (4.3) |
5 | 近畿 | 猪名川(淀川水系) | 大阪、兵庫 | 3.5 | (4.0) |
比較対象された川:全国には小川を含めれば18万本、一級河川だけでも1万4千ほどの川がありますが、平成17年度河川ランキングにおいて、比較の対象とされたのは、これらの川のうちの、わずか、162河川(正確には区間)にすぎません。具体的には、直轄管理区間に水質調査地点が2箇所以上ある一級河川本川、ならびに、同様に直轄管理区間に水質調査地点が2箇所以上あってしかも直轄区間の長さが概ね10キロ以上ある一級河川支川、合計162河川(区間)と限定されています。このきわめて限定された比較対照集団の中で、 平成17年、鶴見川(正確には鶴見川本流のうち国の直轄する下流部)の水質が、下から2番目だったということです。
npoTRネットの意見
比較対象集団の混乱をさけましょう。
公表されたランクを正確に解釈すると、鶴見川(下流)の水質は、特定の一級河川の162区間の間におけるBOD比較において、ワースト2という結果であったということがわかります。これは、全国一級河川1万4千本あまりの中でワースト2、あるいは、全国18万本の川の中で鶴見川の水質がワースト2であったということとは、まったく異なるデータです。この混乱は、発表側、報道、受け取る市民の各部門で、しっかり避けてゆかなければならないと、TRネットは考えます。
絶対評価か相対評価か
国土交通省の<河川ランキング>は、水質の絶対評価ではなく、相対評価に基づいたランキングです。この方式ですすめると、原理的にいえば、比較対照される河川全体の水質がどんなに良くなっても、かならずワースト順位はつけられてしまいます。全国ワーストの河川が、どこもアユの上る清流、というケースもありうるということです。では、平成17年のワースト河川の絶対的な水準はどんなものなのでしょうか。ワースト2位の鶴見川の平均BODは4.7mg/l、ワースト5の猪名川の平均BODは3.5mg/l。文字通りの清流とはもちろんいえない水質ですが、飲料として利用するのではなく、たとえば水生生物の豊かに生息する環境という視点でみたら、すでにそこそこの水質、決して、日本列島ワーストというような水質ではないといって、おかしくないと思われます。絶対評価で言えば、あえてワーストランクを公表されるべき水質であるのかどうか、諸論ありといってよいのではないでしょうか。
都市河川 鶴見川の水質判定にBODだけを使用するも大問題
さらにいえば、比較の尺度が、BOD(トータルBOD)だけというのも、誤解の元と、TRネットは考えます。トータルBODは、微生物によって分解される有機物の量(C-BOD)だけでなく、水中の窒素化合物の無機的な酸化過程での酸素消費(N-BOD)も同時に込みにして測ってしまうあいまいな尺度です。このため、下水処理水の多量に注ぐ都市河川では、たとえば生物の生息環境の指標としては、たぶんかなり過剰な汚染度を示唆してしまう指標である可能性が高いのです。ちなみに鶴見川の場合、N-BODを除いたC-BODは、トータルBODの半分くらいに下がってしまうと思われます。
鶴見川の水質の真実は?
鶴見川は、毎年多量の鮎が遡上します(詳しくはこちら)。今年も、4月8日にTRネットが遡上を確認し、その後夏までの間に、麻生川合流点まで遡上した個体を確認しています。 毎年アユが多数遡上する鶴見川の姿と、全国ワースト2と評価されてしまう鶴見川では、あまりにイメージが違います。飲料水という指標ではなく、たとえば多様な生物を支える水質という基準で評価すれば、鶴見川の水質は、全国ワーストイメージではなく、都市河川にもかかわらす、アユも、ウナギも、モクズガニなども賑やかに遡上させることのできる水と、再評価されてよい水質と、私たちは考えます。
私たちの提案
以上の検討を受けて、私たちは、以下のように提案します。
全体の水質改善も進んでおり、限定された河川にかかわる水質比較を、文字通りの全国ワーストランクと誤解させてしまう可能性の高い、現行のワースト<河川ランキング>方式は、そろそろ取りやめにしてもよいのではないか。
都市河川の水質については、トータルBODだけでなく、同時にN-BODを公表する方式が(下水の高度処理による窒素成分除去への行政努力を励ますためにも)望ましいのではないか。
水質評価の視点は一つではない。たとえば、飲料水としての評価、生物多様性をささえる水質としての評価を、しっかり区別する工夫もすすめて欲しい。
参考文書
平成15年11月、TRネットは、鶴見川のワースト1報道をうけて、ワースト報道のあり方を検証するための特別シンポジウム、「鶴見川流域シンポジウム ワースト1は本当か」(2003.11.16)を開催し、その際に資料として配布された文書、「ワーストワン報道の呪縛から解き放されるための8の工夫」 (岸由二:慶應義塾大学教授・生態学/npoTRネット代表理事) をHPで公開しています。ご参照ください。