水害の川?
バクの川・鶴見川は、かつては「水害・汚染・ごみの川」と名指しされてきました。蛇行が強く流域の市街化の著 しい鶴見川は、江戸の昔から大水害の危機にさらされてきました。治水安全度の確保は鶴見川管理の最大課題といえるでしょう。その治水方式は、川そのものの 整備だけでなく、流域全体で治水の工夫をすすめる総合治水と呼ばれる方式。鶴見川は総合治水のモデル河川でもあります。源流域の1000ha規模の広大な 森を保水地域として保全する努力や、新横浜・小机地区の鶴見川多目的遊水地(新横浜・ゆめオアシス)整備、恩廻公園地下調節池、川和遊水地、さらに流域内 4300箇所をこえる調整池の配置なども総合治水対策の一環です。
水質ワーストの川?
鶴見川は水質の評判も芳ばしくありません。下水道の大幅普及で改善は進んでいるものの、全国一級河川から抽出 された166の直轄一級河川を対象としたBOD値による2011年度発表の水質ランキングでは、ワースト5位(2010年度時点)となりました。水質の改 善が期待されるほどの急速さでない要因の一つはまちの路面や農地から雨水と一緒に川に流れ込む汚染(ノンポイント汚染)。流域視野でさらに徹底した対応が 期待されます。
しかし専門的にいえば、BODという特殊な尺度を使用したワースト5位の数字の一人歩きは、ぜひ避けるべきです。全国には18万本を超える数の川があり ますが、鶴見川はその中で5番目に汚れているというのではありません。「全国ワースト5位」とは、109の一級水系に含まれる1万3千を越える一級河川の なかから166箇所の河川区間だけを選んでBOD値だけで比較したところ、鶴見川下流の国の直轄部分の平均的水質がワースト5位だったというだけの数値で す。「全国18万本の川の中で鶴見川下流はワースト5位」などということではまったくありません。ちなみに、BODではなく水生生物の多様性でみれば、ア ユ、ウナギ、ハゼたちの賑やかに暮らす鶴見川は、都市河川としてはかなり水質良好な川とみることも可能です。鶴見川のような都市河川の水質を、単純な BODの数値だけで評価するのは、専門的にも早急に再検討されるべき課題といってよいのです。
ごみの川?
ごみも困ったものでした。中下流の高水敷では、不法投棄、不法耕作に係わるごみが目立ちました。鶴見川多目的 遊水地(新横浜・ゆめオアシス)予定地の一部からは、PCBやダイオキシンの汚染が発見され、国による処理・対応が進んでいます。そんな状況の中、流域市 民のクリーンアップ活動(「TRネットの鶴見川流域クリーンアップ作戦」等)が盛んになり、不法耕作の撤去も全域で進み、ごみは急速に減り始めています。
水害も、汚染も、ごみも、流域の暮らしや産業活動の産物です。川への愛を忘れた文化。鶴見川の苦境はそんな地域文化が生み出すものと見定めて、本格的な改善にむかう流域活動が広がっています。