<鶴見川の水質>という時の<鶴見川>は、鶴見川のどの部分か。これにかかわる市民の印象と行政の限定とのずれ、という問題も重要です。鶴見川という表現で市民や、行政がどこの鶴見川(?)をイメージするか、実はかなりばらばらという現実があります。
鶴見川という漠然とした表現を聞くと、市民は、鶴見川水系全体、鶴見川本流、鶴見川の一部など、さまざまな対象をイメージすると思います。鶴見川水系全体をイメージする市民は、本流の下流、中流、上流、源流も、さらには支流も含めて<ワーストワン>と受け取るでしょう。私は、町田市上小山田の源流の泉を訪れた横浜の市民に、「この水がワーストワンですか?」と質問され、仰天したことがあります。
河川管理者が鶴見川という場合、対象は業務との関連でさまざまに限定されるのが普通でしょう。鶴見川の水系には、「鶴見川」、「矢上川」、「早渕川」、「鳥山川」、「砂田川」、「大熊川」、「鴨居川」、「恩田川」、「梅田川」、「麻生川」、「真光川」という11本の一級河川があります。いずれも鶴見川水系という一級水系の部分であるという意味では鶴見川と把握されていますが、具体的な計画や、調査や、作業の領域では、個別のものと扱われる傾向が強いのではないかと思います。
鶴見川水系の管理に係わる行政が<鶴見川の水質>と聞けば、おそらく<鶴見川本流の水質>と把握されるのが普通であろうと思われます。さらにいえば、その本流も、下流は国の京浜河川事務所、中流は神奈川県、上流は東京とが管理しています。京浜河川事務所が語る<鶴見川>は<鶴見川下流>、神奈川県が語る<鶴見川>は<鶴見川中流>、東京都の語る<鶴見川>は<鶴見川上流>であって、いずれも<鶴見川本流全体>ではないのが普通、ということも、市民にはあまり知られていないと思います。
「BODで比較すると鶴見川の水質は国の管理する全国の一級河川166本の中でワーストワン」という主旨の国の報道は、事実としては、「BODで比較すると<鶴見川本流下流部>の水質は国の管理する全国の一級河川から選ばれた166本の中でワーストワン」と理解しないといけないと云うことです。前項の結論として、国の報道は<鶴見川の水質は全国22万8千本の河川の中から選ばれた一級河川166本の中でワーストワン>とした方が適切と記しましたが、これもさらに正確にいえば、<鶴見川本川下流部の水質は全国22万8千本の河川の中から選ばれた一級河川166本の(特定の区間で測定された値の)中でワーストワン>という複雑なことになりますね。市民は行政の言葉遣いの癖を知り、行政は市民に誤解のない表現を、さらにさらにしっかり工夫してゆきましょう。
ちなみに、国土交通省の鶴見川水質データは、鶴見川下流部の、亀の甲橋、大綱橋、末吉橋、臨港鶴見川橋の4地点で測定されたBOD値を用いて計算されています。下水処理場が集中し、海水の影響もあるこの区間の水質データで、鶴見川本流、鶴見川水系全体の水質を代表することは、無理ですね。京浜河川事務所HPの最新アップである「鶴見川水質の"ホント"」が、「(鶴見川下流の水質測定値は・・)他の河川との比較に適したデータとは言い難い」と結論しているのは、とても適切です。