水害・汚染・ごみの川という世評の中、流域の市街地率はさらに上昇中。しかしそんな現実にもかかわらず、流れに流域にも、生きものの賑わいや自然の拠点が生き延びている。鶴見川はそんな不思議な危機の川であり、そんな鶴見川はまた河川行政を軸として、水系、流域の視野で環境回復をめざす行政活動が目立ちはじめた先進的な川でもあります。
流域視野で治水を進める鶴見川の「総合治水」には、流域の農地や森や水辺の保全を励ます環境施策の機能もそなわっています。
川の水量、水質、河川空間の管理を進める「河川環境管理計画」(1990)には、自然重視の河川整備や、流域全域を視野に入れた「水と緑のネットワーク」の構想も盛り込まれていました。多自然川づくり、河川環境重視の「河川法改正」(1997)などの動向も、鶴見川の河川行政(国、東京都、神奈川県、横浜、川崎、町田の各市)による環境回復への関心をさらに促しました。1998年春には、流域自治体と学識経験者で構成される委員会、環境庁(当時)を世話役として、生物多様性条約に対応する生物多様性国家戦略の地域モデル計画の一つである「生物多様性保全モデル地域計画(鶴見川流域)」が策定されています。
そして1999年にはこれらのビジョンを統合し、治水安全度の向上、流域環境の回復、さらに自然と共存する流域文化の育成をめざす「鶴見川流域水マスタープラン」の策定作業が、専門家、河川管理者、自治体、市民活動(TRネット)代表者などによって開始されました。
国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所を事務局とする作業は2004年に同プランの最終案を確定し、同8月2日には<鶴見川流域総合治水対策協議会>が<鶴見川流域水協議会>に発展改名されるとともに、同月28日、鶴見川流域にかかわる自治体(東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、町田市)首長と国土交通省関東地方整備局長の署名をえて発効するにいたりました。
鶴見川流域は、2004年8月28日をもって、<鶴見川流域総合治水協議会が総合治水対策を推進する流域>から、<鶴見川流域水協議会が鶴見川流域水マスタープランを推進する流域>に飛躍することになりました。