洞爺湖サミットの開催された2008年、温暖化危機に関してこれまで温暖化ガス削減策(緩和策)ばかりに注目してきた日本国に方向転換のチャンスがありました。
河川局における検討を基礎とした国土交通省の提言として、温暖化のもたらす豪雨・土砂災害・渇水による被害の抑制をめざして、<流域>を枠組みとした<重層的な>水災害対応の方向を鮮明にし、「水災害適応型社会」の構築を目指す旨が宣言されたからです。
その後の経緯の中で、この答申は十分な光をあてられることなく今日にいたった感がありますが、2011年3月11日に東日本を襲った未曾有の大震災・巨大津波災害、それに続く同年秋紀伊半島を襲った台風3号、名古屋を襲った台風5号の豪雨災害、タイのチャオプラヤ川大水害、さらには緩和策一辺倒の日本国の対応に大きな限界をつきつけることにもなった南アフリカでの気候変動枠組条約第17回締約国会議における京都議定書継続をめぐる大混乱などの緊張もあり、温暖化危機への対応は、緩和策一辺倒ではなく、適応策への万全の対応も必要との認識が、ようやく台頭する気配もあるように思われます。
地球環境危機の日本列島において、生物多様性保全・温暖化危機対応をすすめる基本の道は、流域という枠組にもとづいた、総合的な環境・都市再生戦略の発動であることがいよいよ明確にされはじめてゆくはずと、私たちは考えます。
これらの展開をうけ、TRネットは、ここ数年来、鶴見川と多摩川の下流に挟まれた、共通氾濫域(ta(多摩川)+tsu(鶴見川)→tatsu=竜:ドラゴンゾーン)を、巨大津波、超豪雨の大水害にそなえた、モデル的な減災ゾーンとして、鶴見川流域・多摩川流域共通の適応課題としてゆくことも提案しはじめております。
2011年2月の「総合治水30周年記念シンポジウム」(主催:鶴見川流域水協議会)支援、2011年11月に独自に開催したシンポジウム「鶴見川・多摩川・二ケ領用水共通氾濫域=ドラゴンゾーンの危機」などを通して、TRネットは、総合治水による治水安全度向上の成果をふまえつつ、未来の新たな危機に適応するための新たな治水・減災文化育成のための工夫をすすめてゆくことになるでしょう。