鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)は、1991年3月に産声をあげ、2011年で満20年の歳月を刻みました。「安全・安らぎ・自然環境・福祉重視の川づくり、まちづくりを通して、自然と共存する持続可能な流域文化の育成」を目指すTRネットの流域活動は、参加諸団体による持ち場ごとの日常活動を基盤として、文字どおり「草の根」の活動を励まし育てて今日にいたりました。個々の団体による日常活動の工夫や成果、市民連携による流域規模の諸事業はもとより、河川管理者、自治体、学校などとの多様な連携の分野においても、様々な成果を積むことができたかと存じます。その基本に、総合治水・流域水マスタープラン策定等を介して河川管理者が発揮する流域イニシアティブと、TRネットの掲げる流域イニシアティブの2つの流域思考の連携・協働があったことは、いうまでもありません。
設立以来のTRネット活動の成果をうけ、2003年3月、NPO法人(特定非営利活動法人鶴見川流域ネットワーキング/npoTRネット)が設立されました。法人設立とともに、独立団体の連携体であったTRネットも改組が不可避となりました。2003年5月、そのための工夫として、従来の任意市民活動・TRネットは、npoTRネットを支え、連携・協働する新たな市民活動ネットワークである連携鶴見川流域ネットワーキング(連携TRネット)として新生されています。連携TRネットは、npoTRネットの非営利活動の推進を支持する会員団体によって構成されます。参加団体は、亜流域ごとのサブネットを形成しており、サブネットの連携体として流域活動を推進します。各サブネットは、npoTRネットの流域視野の公益的な活動を支える地域組織となると同時に、npoTRネットの流域連携・行政連携・市民活動支援機能を活用しつつ、亜流域ごとの地域の夢を実現してゆくグラスルーツ組織でもあります。
2011年12月の段階で、連携TRネットには44の団体が参加しています。旧TRネットが組み立ててきた、8つのサブネット(鶴見川源流ネットワーク、谷本川流域ネットワーク、中流域ネットワーク、カワウネットワーク、下流ネット・鶴見、恩田川流域ネットワーク、早渕川流域ネットワーク、矢上川流域ネットワーク)組織も再編・再生され、活動を継続・展開しています。
鶴見川の流域では、2004年8月2日、4年半の検討をへて鶴見川流域水マスタープランが確定され、同8月28日には鶴見川流域にかかわる自治体(東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、町田市)首長と国土交通省関東地方整備局長の署名をえて無事、発効するにいたりました。鶴見川多目的遊水地(新横浜・ゆめオアシス)の運用開始(2003年6月)をうけて開設された「地域防災施設鶴見川流域センター」もオープン(2003年9月)から8年目。2007年春には水マスタープランのアクションプランとして、法定計画である、「鶴見川水系河川整備計画」ならびに「鶴見川流域水害対策計画」が策定されました。これにつづき、・水遊びのできる水質の実現に向けたアクションプラン(2008)・河川等の水を震災・火災時に活用するアクションプラン(2008)・河川等の水辺の利用者を増やすアクションプラン(2009)・重要種の保全と外来種駆除に向けたアクションプラン(2009)が登録され、2009年には、TRネットの鶴見川流域クリーンアップ作戦も、市民提案型のアクションプランの第1号として登録されました。
2011年3月11日、日本列島は、東日本大震災による、原発事故をともなう甚大な津波被害を受けました。300年、1000年に一度の大津波がどれだけ深刻な水災害をもたらすか、私たちはいま沿岸都市の沖積地居住の計画に大きな見直しが必要なことを理解しはじめています。これにともない、実は、鶴見川下流域、多摩川と鶴見川の共同氾濫域においても、温暖化豪雨時代をみすえた新しい水防災文化の育成が、必須の要請となってゆくものと、私たちは考えています。総合治水対策30年の成果をうけ、治水安全度の領域に一安心を確認して環境、福祉、教育等々の領域に多彩な展開をつづけてきたTRネット活動は、津波や超豪雨など、数百年に一度の巨大外力の襲来を想定した水防災・減災文化の育成をあらためて中心課題として設定し、流域をあげての保水貢献、減災貢献の啓発にむけて、草の根の活動を工夫してまいります。
2012年は、Rioの地球サミット(1992)20周年を記念する、Rio+20が、開催される年です。自然災害の拡大への適応にしっかり焦点をあわせた地球温暖化危機、生物多様性危機の時代の都市再生は、流域という枠組みにおける総合的・文化的・実践的な適応策の推進によって進められるべきと私たちは考えます。鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)は、npoTRネットと連携TRネットの流域的な協働を通して、水マスタープラン・流域学習活動等への応援をさらに充実強化して、行政諸組織ならびに多くの企業とも多彩に連携しつつ、バクの形の鶴見川流域に、流域思考の新世紀を開いてゆきたいと思います。
2011年12月
特定非営利活動法人 鶴見川流域ネットワーキング
代表理事 岸 由二